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OGKカブト「JIS認証」取り消しの件

ここのところ腕時計ネタばかりだったので、たまにはバイクネタをと思ったんだけど、NM4は車検のため実家に戻っているので気になったニュースを。

普段は「なあなあ」と「適当」が信条の俺だけど、バイクの、特に安全性に関わるこの件はさすがに看過できない(その割に情報が遅い)。

この記事は(というかこのBlogって)あくまで俺個人の主観的な立場からという事を念頭に話を進める。が、JIS規格はヘルメットだけでなく日本の工業製品すべからくに関わる話なので、一応バイク乗りじゃない人にも解るように書いているつもりだ。

久々のバイクネタが「嫌ごと」ってのもどうなのか・・・。

※本記事中に「日本工業規格」と表記しているものは「JIS法」の改正により2019/07に名称が変更され「日本産業規格」となった。「工業」であまりに慣れ親しんでしまったためどうしてもこっちで書いてしまうので、もし出てきたら読み変えてください。

JIS法改正 (METI/経済産業省)

目次:

ネタ元

未読が貯まっていたRSSリーダを何気なく読んでいて偶然見つけた物で5日前の2019/11/26のちょっと古い記事だが、我々にはおなじみのヘルメットメーカーであるOGKカブトのバイク用ヘルメットの品質管理体制が基準を満たしていなかったため「JIS認証」が取り消されたという話。

nlab.itmedia.co.jp

www.meti.go.jp

www.ogkkabuto.co.jp

www.ogkkabuto.co.jp

1週間経過しているのですでにこの話題を取り上げた記事はたくさん出ている。
Google検索「ogk jis 取り消し」

ヘルメットで「JIS認証」が取り消されたってのは初めて聞く話だ。

経緯

弊社東大阪衣摺工場 JIS認証取消理由の経緯と詳細について | 重要なお知らせ | Kabuto

これまで弊社JIS表示製品については、ともにJIS認証工場である東大阪衣摺工場と中国青島工場(山東省青島市)との2つの自社工場にて生産しており、東大阪衣摺工場での生産分については、中国青島工場で製造した一部の部品を東大阪衣摺工場へ転送したうえで組み立てを行い、最終完成品として出荷しておりました。

その一部部品であるFRP帽体の成形工程において、「東大阪衣摺工場で20%、中国青島工場で80%の比率で生産を行う」という取り決めに基づいてJIS認証を取得しておりましたが、その後長期にわたり、実際には東大阪衣摺工場でのFRP帽体成形の生産比率が20%を満たしていないことを正しく報告できておりませんでした。

 

これによって令和元年10月25日の日本車両検査協会による臨時監査後の審査を経て、同年11月26日、衣摺工場のJIS認証取り消しの正式文書を受領しました。

 

なお、組立工程や検査工程に関しては、東大阪衣摺工場ですべて正しく行っており、製品自体の安全性や品質には問題がないことが日本車両検査協会の監査において確認されております。

  • FRP帽体の生産比率(東大阪衣摺工場で20%、中国青島工場で80%)という取り決めが守られていなかった(東大阪衣摺工場生産分が20%を下回っていた)
  • この守られていなかった期間は『長期間』である
  • よって令和元年(2019年)11月26日時点で東大阪衣摺工場のJIS認証は取り消された

なんのための「規格」「認証」なのか

www.jisc.go.jp

JIS規格のバイク用ヘルメットに該当するのは規格番号「JIST8133」の「乗車用ヘルメット」。

helmethacker.com

PSCマークは付いていなければ販売することはできないが、JISはあくまで任意の規格であって、ユーザの使用に当たって法的な制限はない。安いヘルメットであればJISが付かずにSGマークだけの場合も多いが、SGマークかJISマーク、または他の上位規格の付いていないヘルメットを使っていて事故をおこした場合に保険が下りないとか減額される可能性はあるが、あくまで任意だ。

国内ヘルメットメーカーの二大巨頭であるARAISHOEIはPSCマークは当然として、JIS規格やSNELL規格1などなんらかの上位規格を通している。
JISはあくまで日本国内での安全性に対する規格だが、海外(イギリス)にも「SHARP規格」2というものがあるようだ。販売に際して海外でSHARP規格が必須なのかはわからないが、少なくとも日本国内では125cc以上のバイクに乗る際は上位規格付きのものが推奨されている。付いていない物を使っていて事故ったときに場合保険が下りない可能性がある
ヘルメットを世に送り出すヘルメットメーカーにとって安全性の認証はそれぐらい重要3な物だが、今回OGKはこの「JIS規格」通らず外されたということ。

『JIS認証』ステッカーは、「JIS規格を通した」という証明だ。このマークのステッカーをヘルメットに貼るためにJISの認証を行い、それには当然コストが掛かる。単純に認証に掛かるコストは製品価格に転嫁される、つまり高くなる。

それでもそのコストアップされている前提でJISマーク付きを買うってことは、安全性という「安心」を買っているということだ。すなわち、JISマーク込みでの価格と納得して買っているということであって、単に安い物が欲しければ『ヘルメット風かぶり物』として売られているものをどこかのネット通販で買えば良い

私たちが製品を選ぶときの基準として

とは国民生活センターの資料からの引用だが、現在市場に出回っているまっとうなヘルメットであれば基本的には上位規格を通っていないものは(輸入品でないかぎり)ほぼ存在しないと思われる。もうほとんど「付いてて当たり前」レベルだ。

「問題ない」と言われても

先に挙げたねとらぼの記事やOGKカブトのWebサイト、さらに経済産業省からも

(前略)

長期間にわたり製品の組み立て場所に係る記録が適切に記載されていなかったこと

(略)

製品の安全性や品質については、JIS規格を満たしており、問題が無い

(後略)

(以上経産省ページより引用)

●ご質問> JIS規格に通っていないヘルメットをずっと販売していたのですか?

○お答え> これまで販売、および現在流通しているJIS規格製品は、安全性に問題はございません。経済産業省ニュースリリースでの発表にもございます通り、日本車両検査協会が実施した試験で、製品の安全性や品質についてはJIS規格を満たしており、問題がないことを確認いただいております。

経済産業省ホームページ: https://www.meti.go.jp/.../20.../11/20191125009/20191125009.html

(以上『オートバイヘルメットに関するお問い合わせにつきまして』より抜粋引用)

などなど、『製品そのものに問題は無い』ことを繰り返し強調している、が・・・。

OGKカブトや経産省『製品の安全性や品質に問題は無い』 というのは正直苦しい言い訳にしか聞こえない。

問題の本質

以下、JSBCA(JIS登録認証機関協議会)の資料より引用。

(前略)また、製造工場の品質管理体制が工業標準化法・JISマーク省令に規定された基準に適合し、かつ当該工場で製造された製品が該当JISの要件を満足していることについて登録認証機関の厳格な評価を受け、それらの適合性が確認された事業者のみがJISマークを表示できる資格を付与されるものであることから、(後略)

「生産場所について記録」が必要なのはこれが理由。『当該工場で製造された製品が該当JISの要件を満足していること』が担保されなければJISマークを表示することができない

ヘルメットの安全性の検査は不可逆検査だ。実際にヘルメットにダメージを与え、規格通りの性能かどうかチェックする(試験内容については先に挙げたJIS T8133:2015のPDFに定義されている)。バイク用ヘルメットは帽体が潰れることで衝撃を吸収する。つまり一度検査すると、検査した個体を販売することは出来なくなってしまう

では、どうやって「今出荷販売されている製品の安全性」を担保するか。

  1. ヘルメット生産のための材料・製造方法・管理(検品)方法まで規程する
  2. 規程に従ってヘルメットを生産する
  3. 生産されたヘルメットをJISに定義された検査方法で検査する
  4. 検査を行った個体と同じ材料・製造・管理方法で生産された製品は、検査を行った個体と同等である、つまり「JIS認証」取得済であると見なす。

逆に言えば、 検査を行った個体と同等の物であることを保証するためには、材料・製造方法・管理方法を規程して、同じように作らなければならない。
大量生産品であるヘルメットの材料・製造方法・管理方法が同じであることを保証するためには、材料の流通や生産工程・検品まで含めて、工場単位で一括でJISで承認する。さらに生産地や材料や製造方法については途中で変更されることがあるので、「いつからいつまでの生産分について」という期間の要素が付いてくるだろう。生産場所を変更したら都度更新するはずだ。

『当該工場で製造された製品が該当JISの要件を満足していること』を証明してやっと「規格に沿っている」ことを担保できる。

FRP帽体の生産比率(東大阪衣摺工場で20%、中国青島工場で80%)という取り決め

この生産比率が「FRP帽体の部材の生産地」の事なのか「生産工程」の事なのかは俺には読み解けないが、どちらにしろJISCBAが認可した「取り決めを守れていない」あるいは「生産比率の変更を(JISCBAに対して)更新の申請をしていない」というOGKの生産管理体制があったことは間違いない。

できあがった製品の安全性能そのものの問題ではなく、製造における管理体制が杜撰だった、という所が問題であり、メーカーがいくら「安全性に問題はありません」といったところで口先だけと捉えるしかない。だって記録が残ってないんでしょ?いつまでJISを通したときの生産比率なの?証拠がないよね?今の生産比率でJIS通ってないよね?車両検が問題無いといったところで出荷した物すべて検査通した訳じゃないよね?と。

OGK(株式会社オージーケーカブト)はISO9001;2015 の認証取得をしている。

会社概要・沿革 | OGK KABUTO

ISO9001は「品質マネジメントシステム」であり、品質を保つためのガイドラインに従っていることを証明するものだが、JISに通らなくなり認可が取り消されるような生産管理体制では、ISO9001が確実に運用されているかどうか疑問

ちなみに、JISの認証・失効者のデータベースは公開されている。

日本産業標準調査会:データベース-認証取得者一時停止・失効一覧

「株式会社オージーケーカブト」の認証番号は「VI0514001」。

OGKカブトの姿勢と対応、経産省の姿勢

OGKカブトが生産地の割合の変更が意図的な物なのかミスなのかは現時点で定かではない。ネット上には憶測含めていろいろ(「Made in Japan」表記に絡むとか)挙がってがっているがここでは触れない。ともかく 「OGKカブトはJIS T8133:2015 認証が取り消された 」ということは事実ということと、過去に生産された該当モデルの中にはJIS T8133:2015に準拠していないものが存在する、この2点は間違いないだろう 。

で、だ、OGKカブトのその後の対応もマズいだろうよ。

「長期間にわたり」「記録が適切に記載されていなかった」とあるが、それでは実際に「いつからいつまでの分が」という重要な情報が欠けている。つまり、過去から今現在販売されている該当モデルについて、どの個体がJIS認証から外れている、管理体制がずさんな状態で生産された個体なのか、がはっきりしない

そしてOGKカブトは本件について「返品はお受け致しかねます」と明記している

●ご質問> 製品に不安があるので返品できますか?

○お答え>まことに申し訳ございませんが、不良品等以外での返品はお受け致しかねます。経済産業省ニュースリリースでの発表にもありますとおり、製品自体の安全性や品質には問題がなく、引き続きお使いいただけます。

経済産業省ホームページ: https://www.meti.go.jp/.../20.../11/20191125009/20191125009.html

つまり、すでに購入したユーザのヘルメットに、JIS認証ステッカーが貼られているにもかかわらず実質はJISを通っていないものが紛れ込んでいるが、OGKはそれには責任を持たないということ。

さらに、

●ご質問> 販売店なのですが、回収や返品、交換対応は行うのですか?

○お答え> まことに申し訳ございませんが、現在流通中の製品についての不良品等以外での回収やご返品、交換につきましてはお受け致しかねます。経済産業省ニュースリリースでの発表にもありますとおり、製品自体の安全規格の合致や品質には問題がなく、引き続き販売いただけます。

売店から該当モデルは回収されない。回収されないということは小売店は該当モデルの在庫を販売するか処分(破棄か転売)するしかない。つまり、現在用品店で販売されている該当モデルに、JIS認証ステッカーが貼られているにもかかわらずJISを通っていないモデルが混ざっている、と考えられる。これに関しては小売店も被害者だが・・・(後述)。

以上の対応から、OGKカブトは自社の管理体制の杜撰さを自己責任扱いとして完全にユーザと小売店へ丸投げし、処理しようとしている「売りっぱなしメーカー」と見做されても仕方が無いし、管理体制が杜撰ということは、もしかしてこれが企業体質的なものである事が予想され「本当にこのモデルだけなのか?」と疑ってしまう。

このような状態で、メーカーから「問題ありません」と言われて納得できるか? 少なくとも俺は納得できない4

直近の話題に関連するJIS規格でいけば腕時計の「防水」もあるが、ヘルメットとはまったく話が別だ。ダイバーではない俺5の腕時計が浸水して故障してもは『クソッやられた!』で済む話(いや済まされても困るけど)だが、ヘルメットは事故ったときに俺の頭を守るために命を預けるもので、重要度は(自分には)腕時計のそれとは比べものにならない。

自分は、規格というのはシビアな物だと考えている。JIS(日本産業規格)は、任意規格であったとしても、それに準拠しているということは、それなりの基準として評価できると考える。 メーカー独自規格はともかくとして、JISは日本において「標準の規格」を定めるものであって、「JIS認証済を名乗るからにはこれだけは守りなさいよ」というものとして自分は権威を認める。メーカーの考えとして「JIS認証なんぞ要らん」というのであれば、強制ではないから認証を通す必要はない。それだけに「JIS認証」を通っているということは安全製の面から製品へプラス評価できる訳だ。
繰り返すが、JIS認証取得に関するコストは製品に乗っている。その点からすると長期間JISを通らない状態を継続していたOGKに対して「JISマーク詐欺と言われても仕方が無い。

というか、経産省が「JIS通ってないけど製品は大丈夫です」という文言を公式発表として出してしまうのは、「JIS認証」そのものの意味を否定することになってしまわないのだろうか?規格の内容全てそろって「安全性は問題無いですよ」という事では無いのか? これではJISを通している他のメーカーの立場がなくなる。『なんのためにJIS認証通したと思ってんだ!』ってなるだろ。
事実上認証を取り消されたのだから、「取り消しました」だけで良く、メーカー当人ならともかく経産省が「安全製は保たれている」と補足する必要はどこにも無いはずなのだが。OGKにしろ経産省の発表にしろこれだけ「安全性に問題はありません」をひたすら連呼する状況を見ると・・・なにかしら、それこそ『忖度』・・・あるいは『実弾』があったのではないか6とまで勘ぐってしまう。

『JISって本当に大丈夫?』 ひいては最終的にヘルメットだけでなく他のJIS規格についても疑わざるを得なくなってしまうのだが

売店の動向にも注目

今回の件で小売店側は被害者だ。販売数・在庫が多いと思われる大型用品店やネットショップはたまったものではないだろう。

彼らが被害者であるという事を念頭に置いた上で、今後我々がOGKのヘルメットを買う・買わないは別として、気にしておかなければならないのは小売店の反応だ。ダブ付くと予想される在庫を抱えた小売店側がどのような反応をするかで、その店の物の売り方のスタンスが浮き彫りになるはずだろうという事。

  • OGKの取り扱いを自粛
  • 在庫を処分して新規分(JISマークの付いていない物)のみ販売する
  • 説明したうえで値下げして販売する
  • 説明したうえで通常価格で販売する
  • 説明せずに値下げして販売する
  • 説明せずに通常価格で販売する
  • 展示分は新規分を飾るが、購入の際に在庫分を出してくる
  • OGKを擁護しはじめる

上から下へ「こんな店で買いたくねぇ」レベルが上がるw

はてさて、業界各所がどう動くのかが楽しみだ。 お?これって結構 見物じゃね?7

もちろん、ユーザが自分の判断で規格外のヘルメットを買うことに問題は無い。その個人の責任とリスク判断と費用面での都合の話だ。

『どこまでいっても、やっぱOGKか・・・』

率直な感想は、これだ。

古い人間としては、OGKにはどうしても「安物」のイメージがつきまとう。割り切って納得して使う分には個人の判断なので良いのだけど、FirestormやNM4で使うつもりにはならなかった。 もし日本にヘルメット業界のヒエラルキーがあるとすれば、ざっくり「ARAI & SHOEI > その他」みたいな感じだろうか(ただしソースは俺)

「OGK」から「OGKカブト」に社名変更したあたりからなんだか妙な感じ8がしていたが、OGK的にはARAIとSHOEIという二大巨頭に食い込みたかったのだろうか。その割にはなんだか空回りしているような印象があった(突飛なデザインとか)。
なんにしても俺のOGKのメーカーとしての信用度はゼロに戻った。今のところ新しいヘルメットを買う予定は無いのだけど、まぁ当面は選択肢から外れるだろうね。

いざというときの安全面については、実際に事故らなければわからない。だからこそ各種安全規格とブランドイメージを指針にするしかないのが実情で、それはメーカーがきっちり規格を準拠することと、ゆっくりでも着実に築き上げていくしかないものだ。
最近は「OGKも割と気合い入ってるな」とそれなりにイメージは良くなってきていたがそれは機能面の話。安全面についてはやはり規格を参考にするしかない。それだけに、今回の件でイメージは昔に逆戻りしてしまった。残念だ。

「作るは難く、壊すは易く」ブランドイメージはまさにそんな感じ。少しずつ良いイメージを積み重ねてきたのに、崩れるのは一瞬。肝に銘じておかなくては。

OGKがどう対応しようと、それを覆すには長い期間が必要になるだろう。


  1. SNELLは5年ごとに更新され、2019年現在は2015年が最終。

  2. 詳しくは「SHARP - THE HELMET SAFETY SCHEME」を参照のこと。

  3. SNELL規格は横からの衝撃テストは規格にはいっていないようだ。SHOEIとARAIへ質問をされた方の記事があったのでリンクを張っておく。→こちら

  4. SHOEI NEOTECを選択する際にOGKのシステムメットも候補にしていだけに人ごととは思えない。

  5. 深く潜ってもいいとこ素潜り・シュノーケリング程度の俺ならまだしも、アクアラングを使用するようなダイバーなら話は別になる。

  6. まーー、いうてもね、「全くそんな事が無い」なんてことは思ってもいないんですけどねーーぶっちゃけーー。とか言ってみたりして(実弾=金)

  7. ひさびさにバイク板でもヲチしようかしらん

  8. まぁね、「カブト」っていうのは正直ね・・・。